第一章 第四節 ヨハネ伝概説16

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第 二 受肉者の対決 (七章ー十二章)1

⁋この部分には受肉者イエスと世との対決が「光と暗き」の対決として展開されている。しかしてそれはロゴスの受肉者なる光を退ける群と、光に来る群とに分けられている。本書においてユダヤ人は前者の「光を退ける群」の象徴として登場し、後者の「光に来る群」は(a)盲人の治癒、(b)羊の牧者、(c)ラザロの甦り、(d)ギリシヤ人の参詣、の記事に象徴的に語られている。

(1) 光を退ける群 (七章ー八章) 

⁋この部分はロゴスの受肉者イエスと、これを悟らざる世との相剋及び対決の展開からなっている——ユダヤ人とは、世の代表者としてこの対決の主役を演ずる者である。 然も、その対決は、専らイエスの「業」 を場として展開している。この対決の目標もまた、受肉者が神の独子なることの証言にあることを知らねばならない。イエスの 「業」とは、彼が神の遣わし給いし独子なる事を証しするものである事は既述した如くである (五章)。それは先ずこの部分の始に記された

「世は汝らを憎むこと能わねど、我を憎む、我は世の所作(しわざ)の悪しきを証すればなり」

というイエスの言に端緒が見られる。群衆のうちの多くの人々は、イエスを信じて

「キリスト来るとも、この人の行いしより多く徴(しるし)を行わんや」

といっているが、受肉者の為す業は、彼が神の独子なることを比類なき確かさを以て証しするものである事が明示せられている(七章三十一節)。然るにユダヤ人は敢えてこれを否定せんとする。 このユダヤ人こそは「その行為の悪しきによりて、光よりも暗黒を愛する」(3:19)群の代表者であり、「光を退ける群」の象徴である。従って彼らの衷なる動機を見透し給う主は、彼らに向い

「なんじらは下より出で、我は上より出ず、汝らは此の世より出で、我はこの世より出でず。之によりて我なんじらは己が罪のうちに死なんと云えるなり。汝等もし我のそれなるを信ぜずば、罪のうちに死ぬべし」

と弾劾し給うた(八章二十三節以下)。
⁋さてユダヤ人と受肉者イエスとの論争は、イエスの

「汝等もし常に我が言に居らば、真にわかが弟子なり。また真理を知らん、しかして真理は汝らに自由を得さすべし」

という宣言を契機として激化した (同三十一節以下)。 この言はユダヤ人の旧約解釈とイエス理解の致命的な点を衝く刃の如き言である。ユダヤ人にとり、旧約聖書とイエスとは別個のものであるのみではない。 彼らがもてりとする旧約聖書は、イエスの受肉のロゴスたる事の反証なりとしていたのである。彼らにとり旧約聖書は断じてキリスト証言ではない。それは彼らの

「われらはアブラハム の裔にして未だ人の奴隷となりし事なし。如何なればなんじら自由を得べしと云うか?」

というイエスの言を反駁(はんばく)する態度に明示されている。これに対するイエスの論駁は、

「もしアブラハムの子ならば、アブラハムの業をなさん。然るに汝らは今、神より聴きたる真理を汝らに告ぐる者なる我を殺さんと謀る。アブラハムは斯かることを為さざりき。汝らは汝らの父の業を為すなり」

という言として記されている。
⁋斯くして、イエスを殺さんとするユダヤ人の業は、「他者を犠牲とする」世の業であり、世に生命を与えんとする独子の業は「自己を犠牲とする」業である事が立証された。然もこの業における両者の対立こそ、前者が悪魔より出で、後者が旧約聖書の証しする神の独子なる事を立証するものである。然ればユダヤ人が

「汝われらの父アブラハムよりも大いなるか? ——汝いまだ五十歳にもならぬにアブラハムを見しか」

と嘲笑的に問うたのに対して、イエスの答は

「汝らの父アブラハムは、我が日を見んとて楽しみ且これを見て喜べり………アブラハムの生れいでぬ前より我は在るなり」

と記されている (八章五十六節以下)。ここにもはや説明の余地なき程明かに、受肉者は先在のロゴスであり、従って遙か昔記された旧約聖書も、このロゴス・キ リストを証しし指示している書である事が論証せられた。受肉者は全被造物に対し空間的に、時間的に先在し給う者であるが故に(序文参照)、「歴史の原」であり、 その意味において選民 ユダヤ人の祖アブラハムさえ「イエスの日を見んとて 楽しみ且つこれを見て喜」んだのである。これこそヨハネ伝の証言するキリストは、正に「先在のロゴス」であると同時に「歴史の原なるキリスト」であるといわれる所以である。

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第一章福音書>第四節 ヨハネ伝概説16終わり、次は第四節 ヨハネ伝概説17

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