第二章 第十九節 ヨハネ書簡概説 9

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三 ヨハネ第三書概説 1

⁋ヨハネ第三書は、第二書の筆者と同じ「長老」——ヨハネと呼ばれる——から「ガイオ」に宛てた、半個人的書簡である。 このガイオとは、新約聖書中に数人あって(ロマ書十六章二十三節 コリント前書一章十四節・使徒行伝十九章二十九節・二十章四節)、種々に想像せられてきたが、然しその何れであったか、あるいはその何れでもなかったかは、これを決定することができない。啻だ想像の許されることは、本書の調子から見て、彼がこの「長老」によって指導せられた者であったであろうということである。この書の書かれた動機は、教会の一指導者デオテレペスが、長老及その他の教会員に対して採りつつある非信仰的の態度を見るに見かねていたので、デメナリオをガイオに紹介する機会を利用して、彼に対する弾劾を記したものである。
⁋思想的には本書もまたその個有な仕方において、第一書の主題を反復し、その徹底を意図しているといえる。即ち本書は第二書よりも更に具体的に、二つの相対蹠的な人物を示すことによって、アガペに支配されるという事の何であるかを指し示さんとする。ここにはこの書の受取人なるガイオが、主との交際(まじわり)即ちアガペに支配される者の代表として紹介され、デオテレペスという人物は、反対に自己愛 (エロス)に支配される者の代表者として紹介されている。
⁋本書は次の二区分からなっている。

挨  拶(一節)
第一 アガべに支配される者(二節ー八節)
第二 エロスに支配される者(九節ー十節)
結  語 (十一節ー十五節)

第一  アガペに支配される者 (二節ー八節)

⁋この書の受取人とされるガイオは、

「愛する者よ、我なんじが霊魂の栄ゆるごとく、汝すべての事に栄え、かつ健(すこや)かならんことを祈る」

と記されている処によって明かな如く、彼の特徴は活気に富む霊性である。然もその活気ある霊性は真理に従うことから由来していることが誰にも明かである。即ち

「兄弟たち来りて汝が真理を保つこと、即ち真理に循いて歩むことを証したれば、われ甚だ喜べり。我には我が子供の、真理に循(したが)いて歩むことを聞くより大いなる喜悦はなし」

と記されている如くである。ガイオは次に記されている処に由ても明かな如く、苦行にも富む人であり、愛の人である。然し彼の特色として本書の差し出し人が、第一に賞讃するのは、彼が真理に従って歩む人であるという処に強調点が見出されなくてはならない。真理に従って歩む人とは、彼を超えた他者なる真理との交りに在る人であり、それ故に「霊魂の栄ゆる人」なのである。
⁋然も彼は真理に歩む人なるが故に、その人の中にはアガペが緊張的に保たれている。ガイオの真理に循う歩みに就て感動する人が多いが、他方彼の愛の業に就てる同じく聞えが高い、即ち

「愛する者よ、なんじ旅人なる兄弟等にまで行う所みな忠実をもて為せり。かれら教会の前にて汝の愛につきて証せり」

といわれている(五節以下)。彼こそは第一の書及び第二の書が示した如く、真理とアガペがその中において一元的に活かされている人であり、真理と聖愛とが両極的に活かされている理想的な人物である。即ち彼こそ

「主は我らのために生命を捨てたまえり。之によりて愛という事を知りたり。我等もまた兄弟のために生命を捨つべきなり」

という第一の書の告白を、身を以て実践している如き人であると云うのである。神は斯くの如くアガペに支配される人物を用いて、その教会形成の営みを裕(ゆた)かに導き給う。それを語るのが

「なんじ神の御意に適うように彼らを見送らば、その行うところ善からん。彼らは異邦人より何をも受けずして御名のために旅立ちせり。されば斯かる人を助くべきなり、我らも彼らと共に真理のために働く者とならん為なり」

という言である。愛の業の目的も「真理の為」とせられている本書の表現と強調とに注目すべきである。真理を無視した愛の業は盲目となり、他者をも自己を亡ぼす結果を招くことは明かだからである。
⁋とかく真理尊重に傾き、神学を偏重する人は善行と愛の業に無頓着になり易い。他方愛の業に走り、社会事業に打ち込む類の人は、真理を暇人の空論と片附け、これを観念的として軽視し易い。この何れかに傾き易い人間に対して、本書は厳かな警告を告げている。アガペに支配される者とは、生命の言なる主との交際に在るが故に、その裏に真理と愛とが美わしい緊張を保っている姿である。

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第二章 教会書>第十九節 ヨハネ書簡概 9 終わり、次は第十九節 ヨハネ書簡概 10

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