第二章 第十九節 ヨハネ書簡概説 6

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一 ヨハネ第一書概説 6

第三  交りを実現せしめる証言 (五章)

⁋本書の冒頭に引照せられた如く、本来証(あかし)という事は、証を受ける者をして証せられる者との交際に与からしめることである。即ちそれを示したのが

「これ汝らをも我らの交際に与からしめん為なり。我らは父および其の子イエス・キリストとの交際に与かるなり」

という言である(一章三節)。第一項では、イエス・キリストの受肉は、永遠者が時間に在る人間と交際を求め給うた出来事であると述べられたが、この項では、その事柄が次の如き三つの証の契機において解明されている。
⁋イエス・キリストの救を

「証する者は三つ、御霊と水と血となり」

というのがこの三つの契機である。然るこれ等は三つにして一つであり、各々不可分離的の契機である。この三つの三一的関係の確認に由てこそ、教会は、イエス・キリストの肉にて来り給いし事を否認する非キリストの霊に勝つ事を得るのである。まずイエス・キリストが水と血とをもて来り給うたというこの契機の結びつきは、ヨハネ伝福音書も既に明示した処である。十字架上にもはや事切れたイエスに向い

「一人の兵卒・鎗にてその脅(わき)をつきたれば、直ちに血と水と流れいず、之を見しもの証をなす、其の証は真なり」

と記されている(十九章三十四節)。象徴的含蓄裕かなヨハネ伝福音書の、隠された意味に対して、更に人の注視を呼び起さんとするのがヨハネ第一書である。十字架上に死せるイエスの肉から流れ出た水と血とは、主が肉体にて世に来り給いし事の証であり、且つ十字架が永遠に放つ対救拯的効力の象徴である。水はバブテスマを、血は贖罪を象徴することは、新約書の自己解釈である。
⁋然し本書は進んで「これ水と血とによりて来り給いし者」と、附言している処に注意せねばならない。この理解の為にはマタイ伝の開示する光に拠るのが自然である。即ちマタイ伝は、ヨハネからバプテスマを受け給う時、これを拒んだ洗礼者ヨハネに対して主が、

「今は許せ、我ら斯く正しき事をことごとく為遂ぐるは、当然なり」

といわれたものとしている(三章十三節以下)。この行為は正に罪なきイエスが、罪ある選民の位置に身を置き給うたことであるが、同様にこの行為によりて、彼は絶対に隔絶した永遠者と時間に在る人間との間に交際を確立したのである。また主の血は、その血が神の前に罪人の為の宥(なだめ)の供物であることにおいて、神と人との交際 (まじわり)の場となったのである。
第三の証の契機は御霊である。御霊とはヨハネ伝によれば真理の御霊であり、この聖霊こそ「万の事を教える者」であり、「キリストのものを受けて我らに示す者」である(十四章二十六節・十六章十三節以下)。 交際の極致は、他者の凡てがその交際に与かる者に投映され、理解されることである。御霊とはその意味で交際の究極的充実者である。
⁋然し本書は再び、終に際して、この交際の出来事の凡てを担わせられたのは、神自身には非ずして、その子イエス・キリストである事を注視せしめる。故に、ヨハネ伝が特徴的に語る

「神自らイエス・キリストの証人となり給う」

という(五章三十七節)、秘義の解明がここにおいて初めて明瞭になる。

「神の証はその子につきて証し給いし是なり。神の子を信ずる者はその衷にこの証をもち….その証はこれなり、神は永遠の生命を我らに賜えり、この生命はその子にあり。御子をもつ者は生命をもち、神の子をもたぬ者は生命をもたず」

とは、本書におけるヨハネ文書的主張の反映の代表的のものである(五章九節以下)。それは本書の主題なる「交際」の中心に三つの契機の担い手として立つのがこの神の子だからである。しかしてこの信仰に自覚的に立つこと以外に、世とその非キリストとに勝つ途はない。これこそ本書が

「おおよそ神より生るる者は世に勝つ。世に勝つ勝利は我らの信仰なり。世に勝つ者は誰ぞ。イエスを神の子と信ずる者にあらずや」

と結論する所以である(五章四、五節)。要約的にいえば、教会が世に勝つ途は、世に勝ちし神の子イエスとの交際に在ることの、現在的自覚に他ならないという事である。
キリスト者の死活点は、キリスト者の「主に居る」ということの所与的把握の一点にある。この一点がゆずられる時、信仰の総体がぐらつく。故に本書は、この「主に居る」という「所与」(ガーベ)を死守せよと訴えるのである。然し「主に居る」ことの確かさが強調されればされる程、そこには、それを過去的な安堵感とすりかえる危険がある。そこに「主に居る」ことが、その現在的自覚として強調されねばならない必然性があるのである。

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第二章 教会書>第十九節 ヨハネ書簡概 6 終わり、次は第十九節 ヨハネ書簡概 7

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