第二章 第十七節 ペテロ前書概説1

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⁋ペテロ前書は「イエス・キリストの使徒ペテロ」が、「ポント・ガラテヤ・カパドキヤ・ビテニヤに散りて宿れる者」に、書き送った書簡である(一章一節)。先ずこの書簡の受け取り手を見ると、そこに「散りて宿れる者」(Diaspora)という語が用いられているが、これは普通ユダヤ人にして異邦に「散在」せる者に用いられた特殊の語である(参考ヨハネ伝七章三十五節)。従って辞義通りに解すれば、此の書簡は此等の諸地方における、ユダヤ的キリスト者に宛てられたものと云わなければならない。然るに本書中の諸種の言は、この書簡の受け取り手が、ユダヤ人ならずして、異邦人なるキリスト者である事を示している。

「なんじら前には民にあらざりしが、今は神の民なり」

とか、

「なんじら過ぎし日は、異邦人の好む所をおこない…… 律法にかなわぬ偶像崇拝に歩みて・もはや足れり」

というような言は、この事実を明瞭に示している。従って本書の宛名は、一つのユダヤ的象徴を用いたものといわざるを得ない。即ちこの受け取り手は、これらの諸地方にあった異邦人キリスト者であったので、勿論その中に多少のユダヤ的キリスト者があったであろうことは想像できる。
⁋これらの地域は地図をみるとわかるように、東北から北および西へという順序で記され、恰度ローマからポントに渡航した者が、当時の貿易公道を歩いて行くと、一と廻りするような順序に述べられている。恐らくこの書簡をもっていった使者が、通過して行った順にその地名を記したものであろう。これらの地域は、使徒行伝をみると、使徒パウロが伝道した地方を含んではいたが(ガラテヤ)、ビテニヤ及びカパドキアはパウロの訪問地域には入っていない処であった。従って本書の宛名のキリスト者が、パウロの伝道した教会のそれをも含んでいたか否かは明瞭でない。本書中に彼の名が現われていないことをみると、恐らくそれらを含んでいなかったと観るのが正しいであろう。
⁋次に本書の筆者として記されているペテロは、茲に記されているように、「イエス・キリストの使徒」であって、この点についてはヤコブ書のヤコブの場合とは異り、その人物決定に一点の疑もないのである。啻(た)だこの書簡が記された時、ペテロは「バビロン」に在ったといわれているが(五章十三節)、この地名が一つの問題となる。この地名は本書の宛名が象徴的であると同様に象徴的であろうと思われる。しかしてそれはローマを指しているであろうと想像されている。ローマの官憲をはばかって、バビロンと呼ぶことは当時他にもあったことである(黙示錄十四章八節其他)。

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第二章 教会書>第十七節 ペテロ前書概説 1終わり、次は第十七節 ペテロ前書概説 2

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