第二章 第十四節ピレモン書概説 1

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⁋ピレモン書はいわゆる「獄中の書簡」の一つで、ロマにおいて福音のための囚われ人であるパウロおよびテモテが、ピレモンとその妻アピアとアルキボス及びピレモンの「家の教会」に宛てて贈った、極めて短い書簡である。この書の認められるに至った事情は、本書の中に窺うことが出来る。即ちコロサイの教会の富める信徒ビレモン(コロサイ書四章九節)の奴隷であったオネシモが、その家を逃げ去って、ローマに行き、其処でパウロに導かれて入信し、その許で暫らく働いていた。処がパウロは自分の弟子であり・同労者であるピレモンの逃亡奴隷を、無断で使用することを快く思わず、折を得て、オネシモを主人ピレモンの許に帰らせることを決心し、それに先き立ってオネシモの為の釈明と執成(とりな)しと歎願(たんがん)の手紙を認めた。それがこのピレモン書である。
⁋本書は全体わずかに二十五節からなっている、極めて個人的な色彩を帯びた書であって、何らむずかしい神学論を含まないが、その中にはパウロのひととなりが極めて鮮明に浮かび出ている。しかして殆んど凡ての書簡がパウロの口授によったものであるのに、この書は特に「我パウロ手ずから之を記す」と特筆されているものであることも、本書の性格理解の上から注目に価する。
⁋牧会書簡の最後をなし、ピレモン書に先き立つテトス書は、その目標を信仰の健全性においたが、続くピレモン書はむしろテトス書とは対蹠的に、信仰の飛躍性を訴える書である。即ちテトス書では「善き業」を強調し、その善き業は

「逆う者を云い伏することを得ん為」

であると述べられたが、ビレモン書はむしろ「善き業」からの更に高き飛躍を命ずる書である。本書の受け取り人なるピレモンは「善き業」の聞え高き人である。パウロは彼に対して

「兄弟よ、我なんじの愛によりて大いなる歓喜と慰安とを得たり。聖徒の心は汝によりて安んぜられたればなり」

と、彼の普き業を充分認めているが、パウロはそこで止っていない。そのピレモンに対して彼は更に

「この故に、われキリストに在りて汝に願う」

といい、ピレモンの側における更に高い信仰的飛躍を期待しているからである。

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第二章 教会書>第十四節ピレモン書概説 1  終わり、次は第十四節ピレモン書概説 2

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