第一章 第三節 ルカ伝概説8

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第二 神国キリストの要請(四章ー十六章)1

⁋イエスが俟望者にとって「恩寵」であるのは何故かといえば、彼こそは「主の喜ばしき年の告知者」であり、理想的社会の携帯者だからである。他の福音書は、イエスが四十日の荒野の誘惑の後、直ちに、「天国は近づけり」と教の第一声を発し給いしものとしているのに、ルカ伝のみは、前述のように主は直ちに安息日に故郷ナザレの会堂に入りて、イザヤ書の

「主の御霊われに在す。これ我に油を注ぎて貧しき者に福音を宣べしめ、我を遣わして囚人に赦を得ることと、盲人に見ゆる事とを告げしめ、圧えらるる者を放ちて、自由を与えしめ、主の喜ばしき年を宣べ伝えしめ給うなり」

という言を見出し給い、

「この言は今日なんじらの耳に成就したり」

と告げ給いし事を記している(四章十八節以下)、既述せし如く、これはレビ記第二十五章 に記された大釈放の年なる「ヨベルの年」に遡るものである。
⁋このヨベルの年とは安息の年即ち七年を七回数えた、その第五十年目の社会的経済的及び人的の大釈放の規定である。その意味において、ヨベルの年とは、神の国の社会的・経済的・人道的側面を象徴するものである。その大釈放は第一に・先祖伝来の不動産を已(や)むを得ず他人に売り渡していた者はこれを無条件に返還され、第二に・その身を売って奴獄となっていた者も無条件でその自由を回復されるという規定である。

「かくしてその第五十年を聖め、国中の一切の人民に自由を宣(ふ)れしめすべし。 この年はなんじらにはヨベルの年なり。 なんじらおのおのその産業に帰り、おのおのその家に帰るべし」

というのが、その概括的規定であった(同十節)。この規定は現実にはイスラエルにおいて行われなかったと想われるが、理想的社会の建設の為召された選昆イスラエルの在るべき姿の規準とし、目標とすべき理想的経済的人道的原則がこれによって窺われる。

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第一章福音書>第三節 ルカ伝概説8終わり、次は第三節 ルカ伝概説9

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