第一章 第三節 ルカ伝概説2

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⁋新約聖書の最初の二つの福音によると、ナザレのイエスは、その宣教を

「時は満てり、神の国は近ずけり、汝ら悔改めて福音を信ぜよ」、

またはこれと相似た、神の国到来の予告を以て始め給うた(マルコ伝一章十五節・マタイ伝四章十七節)。 その如くイエスは実に「神の国」の告知者として来り給いし者である。
⁋さて第三福音書によると、イエスは単に「神の国」の告知者であるのみならず、彼自身が「神の国キリスト」Reich-Christus なのである。この主張はルカ伝全体から浮かび上ってくるものではあるが、それを端的に示すのが、イエスの

「視よ・神の国は汝らの中にあるなり」

という言である(十七章二十一節)。これはパリサイ人に「神の国の来るは何時か」と問われた時のイエスの答として記されている。 この句の中の「汝らの中に」という言は、英語のinというよりamong-entosを意味するもので、従ってこの句は

「汝らの中に立つ我(キリスト)において神の国は来た」

と解釈するのが正しく、キリスト即ち神の国であり、Reich-Christus である。
⁋このルカ伝に就ては、その冒頭の

「我らの中に成りし事の物語につき、始よりの目撃者にして、御言の役者となりたる人々の、我らに伝えし其のままを、書き列ねんと、手を著(つ)けし者為またある故に、我も凡ての事を最初より詳細に推し尋ねたれば、テオピロ閣下よ、汝の教えられ
たる事の慥(たしか)なるを悟らせん為に、これが序(つい)でを正して、書き贈るは善き事と思わるるなり」

という言によつて知られる、(一章―ー四節)二三の重要な事がある。その一は・イエスの生涯に就て、最初からの目撃者であって御言の役者となった人々が、数人書き記したという事で、その二は・本書の著者はその知人テオピロ閣下たる者に、その既に書き記されているのを、更に、「序(つい)でを正して」書き送らんとしたことである。随ってこの事が明瞭になる。一は本書の著者ルカは主イエスを直接に見たこともなく、況(ま)してやその御教を直接にきいたことのなかった人であるということであり、他は、本書の書かれた目当てなる人間がギリシヤ名をもつ異邦人であったことである。従って選民を対象として たマタイ伝とは、その特徴を異にしているということはいうまでもないことである。一言でいうと、マタイ伝は狭くして深いが、ルカ伝は広くして高い。この関係を詳しくいうと、次の如くなる。

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第一章福音書>第三節 ルカ伝概説2終わり、次は第三節 ルカ伝概説3

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