第一章 第三節 ルカ伝概説1

ホーム渡辺・岡村著書新約聖書各巻概説>第一章福音書>第三節 ルカ伝概説

⁋ルカ伝が証しするキリストは「世界万民の救主」である。従って「選民イスラエルに約束されしメシヤ」を証しするマタイ伝と本書とは、よき対照をなしている。マタイ伝が選民の過去の歴史を振り返りつつ書かれており、マルコ伝が人類の現在的束縛を慮(おもん)ぱかりつつ書かれているのに対し、ルカ伝は、教会の創設を語る使徒行伝の未来を指し示しつつ、世界万民の救を目ざして書かれている事である。然もこれら共観福音のキリスト証言は、いずれも「神の国」 を目標とするキリスト証言である事に注意しなければならない。就中(なかんずく・とりわけ)ルカ伝はこの「神の国」 の本質を原理的に徹底せしめ、ナザレのイエスこそ「神の国キリスト」Reich-Christus なる事を証しする事である。
⁋然らばこの「神の国」とはいったい何であろうか。それはマタイ伝では、地の国に対する 「天の国」と称ばれているものであり、本来旧約聖書に示されて来た「神の全き支配の国」即ち「理想的社会」の、キリスト・イエスに由て成就されるものを指す。即ち選民イスラエルの太祖アブラハムが主エホバの召命を受けた時、彼は

「我汝を大いなる国民と成し、汝を祝み、汝の名を大いならしめん、汝は祉福(さいわい)の基となるべし………天下の諸ろの宗族汝によりてさいわいを得ん」

という約束を与えられた(創世記十二章二一三節)。いわば選民とは理想的世界国家建設の為に召され、その方法として彼等自身の国家を建設する者であり、従って彼らに与えられた律法も、彼らが理想的世界国家を実現せんが為の「方法」としての必然的要請と指示であった。斯くて彼らは約束の地カナンを、理想的国家実現の為にその方法たる自己の国家を建設する場所とすべく与えられたのであった(出埃及記参照)。以後旧約聖書を貫いて、選民の建設すべき理想的社会の幻と、その実現の為の指示と訓練とが反復強調されている(イザヤ書十一章一ー九節・出埃及記十六章一ー十八節・レビ記二十五章・申命記十五章等)。然も、この理想的社会の建設は自己犠牲に由る以外に実現不可能であることが徐々に明瞭にされ、遂にそれは将来において一人の無名の神の僕の「代償的犠牲」によってのみ、実現せらるべきものであることが示されるようになった(イザヤ書四十二章以下参照)。 斯くて旧約はその理想的社会の幻の実現者を、「将来」に指示しつつ終っている。

ーーーー

第一章福音書>第三節 ルカ伝概説1終わり、次は第三節 ルカ伝概説2

ホーム渡辺・岡村著書新約聖書各巻概説>第一章福音書>第三節 ルカ伝概説

 
 

コメントを残す

WordPress.com で次のようなサイトをデザイン
始めてみよう