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第四 権能者イエスの拒否 十四章十節—十六章二十節)3
⁋他の共観福音書は、この復活の主の対象を単に「弟子たち」としているのに、マルコ伝だけは「ペテロとに」と附け加えている。
「たといみな躓(つまず)くとも我は然らじ」
という自力の決断も、実は虚しい自己の「かいかぶり」(自己欺瞞)であったことを告げる主の十字架が、今や彼の前に厳然と立ちふさがっている。その自力の破れを味わい、人間的限界状況に立つ彼ペテロに向かって、復活は然し新しい打開・上よりの打開の途を約束する。ペテロは生れつきのままの人間がその為し得る限りを尽してもなお、主を否み・主を否定すること以外には出来ないという、人間の悲劇的性格の象徴である。然しその人間に
「神には然らず、夫れ神は凡ての事をなし得るなり」
という主の御声が、十字架を超えて復活の現状となって語りかける。この権能者イエスの十字架と復活に顕われた神の権能のみが、 ペテロに代表された神国来臨をはばむ人間の束縛と自力的限界を超克せしめる。これがマルコ伝の示す権能者イエスの福音である。
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