第一章 第二節 マルコ伝概説10

ホーム渡辺・岡村著書新約聖書各巻概説>第一章福音書>第二節 マルコ伝概説

第二 権能者イエスの制約 (六章一節ー八章二十六節)2

⁋このことは人間の側における信仰のない所には、権能者イエスと雖も奇跡を為し給うことが不可能であったという事である。この句のマルコ伝的表現の特徴は、これをこれと平行節であるマタイ伝のそれと比べる時より明瞭になる。即ちマタイ伝は

「彼らの不信仰によって、そこにては多くの能力ある業を為し給はざりき」

と記しているが(十三章五十八節)、マルコ伝はこれを

「何の能力ある業をも行い給うことが能わず」

と記しているのである。この信仰観は明かに書簡のそれと対蹠的である。書簡においては、周知の如く、信仰は神の賜物であって(エペソ書二章八節)、「上より」のものであり、人間が「下から」から得るものではないという観方が顕われている。従って共観福音書が信仰を「下から」のものであるかの如く記していること、殊にマルコ伝が前掲の言を記していることは、旧い時代の多くの註釈者をして非常な困難を感じさせた。しかしてある者はこの点を、共観福音書と書簡との「宗教的差異」を立証する為の一つの証拠とさえしたのであった。

ーーーー

第一章福音書>第二節 マルコ伝概説10終わり、次は第二節 マルコ伝概説11

ホーム渡辺・岡村著書新約聖書各巻概説>第一章福音書>第二節 マルコ伝概説

 
 

コメントを残す

WordPress.com で次のようなサイトをデザイン
始めてみよう