第一章 第二節 マルコ伝概説9

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第二 権能者イエスの制約 (六章一節ー八章二十六節)1

⁋マルコ伝の証しする処によれば、神の国は権能(ちから)を以て来臨するものであるが(九章一節)、それは絶対にそれを受ける人間の人格を無視するような、上からの圧力として来るものではない。人格が人格として扱われるということは、前述の如く、その人格の自由意志の充全なる尊重を意味する。聖書はこの点を余す所なき明瞭さを以て語っている。創世記の人間創造と堕落の物語が中心に浮かび上らせているのも、この人間の自由意志の位置であるといえる(三章)。 この事柄は聖書を貫いて凡ゆる形で語られているが、マルコ伝は特に心を用いて、この点を読者に直視せしめんとする事である。
⁋人力を絶した悪鬼の束縛に悩まされて病みつかれ、あるいは人生に望を失いつつある人間に近づき、その身をかがめてこれを見舞い、これに望を与えて解放し給う全能なる権能者を描くマルコ伝は、然し、一つの不可解なる一点に対して読者の注意を喚起する。それは神の子としてのイエスに、彼が能力ある奇跡者であるにも拘らず、一つの避けがたい制約があったという事である。それはイエスの故郷ナザレで、その近隣の人がイエスに対する贖きを表明したときの記事に見られる。即ちそれは

「彼処にては、何の能力ある業をも行い給うこと能わず、ただ少数の病める者に、手をおきて医し給いしのみ、彼らの信仰なきを怪しみ給えり」

とい の示す一点である(六章一節以下)。

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