第一章 第二節 マルコ伝概説7

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本書の内容は従って次の四つに分たれる。
一 権能者イエスの福音(一章一節—五章四十三節)
二 権能者イエスの制約(六章一節―八章二十六節)
三 権能者イエスの期待(八章二十七節ー十四第九節)
四 権能者イエスの拒否(十四章十節ー十六章二十節)

以下この四項目においてこれを概観することとする。

第一 権能者イエスの福音 (一章ー節—五章四十三節)

⁋「時は満てり・神の国は近ずけり・汝等悔改めて福音を信ぜよ」(一章十五節)

と告げるイエスは、その奇跡的権能の故に、本書を貫いて人々の驚異の対象となっている。本書には「驚く」 という言と「直ちに」という言とが夥(おびただ)しく散布されているが、この現象も本書の個性把握に対して重要な鍵を与えるものである。「驚く」という自然的反応は、そこに全く予期に反した事が起ったことであり、「直ちに」という副詞は、反応的行為の敏速さを表わすことであり、共に本書の叙述する神の国来臨の接迫感をかもし出す重要な要素である。ガリラヤの漁夫シモン とその兄弟アンデレも主の

「われに従いきたれ、汝等をして人を漁(すなど)る者とならしめん」

という招きに対して「彼ら直ちに網をすてて従えり」と記され、また受洗後のイエスに就ては、「御霊ただちにイエスを荒野に逐いやる」 と記され(一章十二節)、十二年血漏を患っていた女もイエスの衣にさわれば、彼の権能の故に「血の泉、ただちに乾き、病のいえたるを身に覚えたり」と記され、続いてイエスに就ても「イエス直ちに能力の己より出でたるを自ら知り」給うたと記されている(五章二十五節以下)。実に権能者イエスは、その権能に対して人間が反応することを妨げて居る凡ゆる束縛から人間を解放する者である。
⁋共観福音書の他の書物のもつ長さの三分の二しかないこのマルコ伝が、イエスの教説の多くを記すことなく、人間を束縛して居る悪鬼の力のイエスによる征服の記事を克明に記しているのも、 この解放者イエスをクローズ・アップせんが為である。

「誰も之を制する力なかりし」

ほどに、致命的に悪鬼の束縛の下に閉じ込められた人間を、それから解放し(五章一節以下一章二十九節以下)、 その弟子にも「悪を逐い出す権威を用いさする為」の力を附与し(三章十三節以下)、病める者をその熱からこれを解放して弟子等と偕に奉仕の業にいそしむようになし(一章二十九節以下)、中風の者には彼を束縛している最も根源的なる罪からこれを解放し給うのが(二章一節以下)権能者イエスの解放の福音である。

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第一章福音書>第二節 マルコ伝概説7終わり、次は第二節 マルコ伝概説8

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