第一章 第二節 マルコ伝概説2

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⁋先ず第一は・そのイエス伝の提示形式である。マタイ伝は「アブラハムの子、ダビデの子、 イエス・キリストの系図」という書き出しを以てその叙述を始め、ルカ伝は、矢張りイエスの公生涯に入り給う叙述に先立って、美しい誕生物語の絵巻物を繰りひろげ、更に個性的にマタイ伝の如く、アブラハムまで遡る系図ではなく、人類の共通の祖アダムまで遡る系図を与えて いる(三章二十四節以下)。またヨハネ伝は系図とはいえないが、その「先在のキリスト」をロゴス (言)として、その起原を「創造の太初」まで遡っている(一章一節一十八節) 。
⁋然るにマルコ伝には、イエスの系図も、その誕生物語も凡て省かれている。即ち本書は端的に「神の子イエス・キリストの福音の始」と冒頭に記し、直ちに洗礼者ヨハネの前に現われ、バプテスマを以てその公生涯に突入し給う姿においてそのイエスを紹介している。ここに既に神国来臨の危機感または接迫感が、雄弁に語られているといわねばならない。神の国の接迫に当って顕われた神の地的顕現者に対しては、も早やくどい説明を要しない。神の権能と能力とは人の眼のあたりに見せつけられる事実であって、これについて肩書きとか系図とか履歷とかいう一切の先行的叙述の必要を感じないというのが、この形式が示しているマルコ伝の特徴である。即ち如何なる背景にある肩書に拠らざるイエスが、神の国来臨を告げる為に神の権能において登場し、奇跡的解放を行い給う、これがマルコ伝の提示するイエス像である。

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第一章福音書>第二節 マルコ伝概説2終わり、次は第二節 マルコ伝概説3

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