第一章 第一節 マタイ伝概説10

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第二 メシヤの成就する律法 (五章—七章) 1

⁋選民の失格は、その根源に遡れば彼らを救い得ざりし律法にあるのだから、その回復は先ず 「その律法の成就」にあると結論せられる。この部分の具体的内容は所謂「山上の垂訓」と呼ばれるものであるが、そこには律法の成就者としてのメシヤに由る旧律法の徹底成就がみられる。
⁋この教は第一に・神の国の市民の性格を規定している(五章一ー十六節)。 それは「自己充足的」でなく「他者指示的」な性格である。即ち「幸福なるかな」と称ばれている者の性格は、 世のいわゆる幸福なる者のそれとは凡そ正反対である。この世の幸福なる者とは自己に満ち足りて在る人であるが、ここに指示されている幸福なる人とは、それと正反対に

「悲しむ者・柔和なる者・義に飢え渇く者・憐憫ある者・心の清き者・平和ならしむる者・義のために責められたる者」

であり、その充足と成就を「他者」に待つ者の姿であり、その性格である。また神の国の市民の性格は、「塩」に喩えられ、「光」に喩えられているが、この性格も自己を超えて他に向う性格であり、その在り方の目的も

「これ人の汝らが善き行為を見て、天にいます汝らの父を崇めん為なり」

と叙られ(十六節)、ここにも他者指示的な性格が強調されているのを見る。
⁋この教は第二に・旧約の成就に随って「律法の成就者」イエスを指示している(五章十七節ー四十八節)

「われ律法また預言者を毀(こぼ)つために来れりと思うな。毀たんとて来らず、かって成就せん為なり。誠に汝らに告ぐ、天地の過ぎ往かぬうちに、律法の一点、一画も廃ることなく、 悉(天音)く全うせらるべし」

と宣言し給うイエスは、前述の如く、それ自身ではその本来の目的を果し得ない律法・預言者という空虚なる器を充す者その者である。 この部分には以下、旧律法の成就者メシヤに由る再解釈が叙べられている。そのメシヤに由る再解釈とは「古の人に…… 云えることある汝らきけり。然れど我は汝らに告ぐ…….」という形を以て述べられているが、それは旧律法の本質的要請を徹底せしめたものの提示である。

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第一章福音書>第一節 マタイ伝概説終10わり、次は第一節 マタイ伝概説11

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