第一章 第一節 マタイ伝概説6

ホーム渡辺・岡村著書新約聖書各巻概説>第一章福音書>第一節 マタイ伝概説

6/6

⁋以上を要約すると次の如くいわれる。第一に・マタイ伝が証しするイエスは、選民に約束されしメシヤである。即ち彼は旧約の成就者であると同時に、イスラエルに代ってその使命を完遂する者である。イスラエルの使命とは世界万民の救拯の為に、真の神を万民に告知するという事である。随つて旧約の成就者イエスが失敗せるイスラエルの歴史を踏み直し、回復し給う業を通してのみ、万民救拯という神の聖旨が果されると見るのである。
⁋第二に・選民イスラエルの失格の原因は、何処にあったかを本書は明かにする。選民イスラエルの失格の原因は、彼らがその使命遂行に要請せられている逆説的在り方に堪え得なかったということである。即ちその逆説的在り方とは、自己を棄てる事に由ってのみ自己の使命の成就があり得るということである。随って真の遺残者所謂理想的イスラエル――としてのメシヤとは、この逆説的在り方の具現者でなければならなかったという訳である。
⁋さてその叙述様式の特徴からみると、本書はイスラエルのメシヤなるイエスの為し給いし業や・語り給いし言を記録するに当って、或る種の企画を以てしている事に気ずかせられる。それはイエスがその聖業を「教示 Teaching・宣教 Preaching・治癒 Healing」の三段に分ち給うたという観方である。例えば山上の垂訓を採って見ても、ルカ伝ではそれが第六章二十節—四十九節・第十一章・第十二章・第十三章・第十六章等各章に散布されているが、本書にはそれ が第五章から第七章に一括されて「教示」とせられている。而して第八章・第九章には続いて 「治癒」の記事が集められている。斯くの如き本書の観方の特徴を要約するのが、

「イエス遍くガリラヤを巡り、会堂にて教をなし、御国の福音を宣べ伝え、民の中のもろもろの病、もろもろの疾患(わずらい)をいやしたもう」

という言である (四章二十三節・九章三十五節)。 処がこの明確なる区分と秩序とが、本書の前半が終る頃よりようやく崩れ始め、遂にそれは、十字架の死という苦難に向う緊張に由て、渾一化されてしまっているのを見る。それはイスラエルの為の過越しの羔羊としてのイエスの使命が、彼自身の死の予感の裏に、この二つの様式をも元的に包まねばならなくさせた事を意味しよう。本書の区分は次の如くである。

第一 メシヤの回復する歴史(一章ー四章)
第二 メシヤの成就する律法(五章―七章)
第三 メシヤの暴露する偽善 (八章―二十三章)
第四メシヤの予告する終末 (二十四章ー二十五章)
第五メシヤの成就する過越(二十六章—二十八章)

ーーーー

第一章福音書>第一節 マタイ伝概説終6わり、次は第一節 マタイ伝概説7

ホーム渡辺・岡村著書新約聖書各巻概説>第一章福音書>第一節 マタイ伝概説

 

コメントを残す

WordPress.com で次のようなサイトをデザイン
始めてみよう