第一章 第一節 マタイ伝概説2

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⁋旧約聖書に拠れば、神は世界救拯の聖旨を遂行せんが為、イスラエルを選み、これを選民として育成し給うた(創世紀十二章一節以下)。然るに選民イスラエルは、その歴史を通じて、その使命に堪えざる者として自己を暴露した。随って旧約が俟望せしめる救い主は、その選民の果し得ざりし使命をこれに代って担い且つ貫き給う者、即ち真の「遺残者」(のこり人)――現今の旧約学の所謂「理想的イスラエル」であり(イザヤ書四十二章以下参照)、旧約に語られた一切の要請と約束とを成就し給うメシヤでなければならない。マタイ伝はナザレのイエスこそ、その旧約が俟望し来りし「メシヤ」であり、 旧約の一切の「成就者」である事を証しするのである。

「われ律法また預言者を毀つために来れりと思うな。 毀たんとて来らず、返って成就せん為なり」

というイエスの言は、マタイ伝全巻の絆括ともいうべき言である(五章十七節 )
⁋この「成就者」とは、字義通りにいえば「空虚なる器を充す者」という意味である。即ち何ものかを盛るべき器があっても、これを「充すべきもの」がない時、その器は空虚なのである。その器に何ものかを充す。これが成就者である。随って、空虚なる器とは、それが存在していても、それが造られた本来の目的を、それ自身では果し得ないものである。言を換えていえば、それ自身では自己の存在目的を完うし得ない在り方に在るものを指すのである。故に成就者たるメシヤとは、旧約の律法・預言のもつ本来の意図と目的とを明かにし、且つそれらがその目的を自己においては充すことの出ないことを以てその本質とすることを指摘し、 これを彼の手に依て初めて実現させ、それによってこれを成就する者の謂(いわれ)である。これが「成就者」という者の本来の意味である。

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第一章福音書>第一節 マタイ伝概説終2わり、次は第一節 マタイ伝概説3

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