第一章 福音書

ホーム渡辺・岡村著書新約聖書各巻概説>第一章福音書>

第一章 福 音 書

⁋新約聖書は大きく三つに分かたれている。第一は福音書で、・第二は教会書で、第三は預言書である。第一には四つの福音書が含まれ、これによって教会はその過去に与えられた神の恩寵を学ばせられる。第二は使徒行伝及び書簡を含み、教会はその現在の神の恩寵を学ばせられる。 第三には黙示録が含まれ、これによって教会はその未来の恩寵を仰がせられる。
⁋第一の福音書とはその数が四つあって、マタイ伝福音書・マルコ伝福音書・ルカ伝福音書・ヨハネ伝福音書と呼ばれている。この人名は昔からそれぞれの書の著者と考えられた名である。而して「伝」とは、所謂伝記という意味ではなくーーそれではマタイの伝記ルカの伝記ということになってしまう――「によって伝えられたる」という意味である。福音書とはイエス・ キリストによって告知せられた、しかして人間が之を受くべき価値がないのに拘らず与えられ るという「喜ばしき音ずれを記してある書物」という意味である。
⁋この意味において四つの福音書は、各イエス・キリストの生涯・その行動・教說を記している。従って大ざっぱにいえば、四冊とも同じことを書いた書物だとも、いっていえないことはない。これが為に昔からこの四冊を、四冊別々にしておくことは無益だから、これを一冊に筋を通してまとめた方がよい、と考えた人々が多くあり、またそれを実行した人かあった。これも一つの考え方で、頭から悪いというわけにはいかない。しかし四冊別々のキリストの伝記のあるのは、「無益」だというのは正しいことではない。というのは、これら四冊のキリストの伝記は、一冊だけではいい切れない四つの面をいっているからである。むずかしくいえば、これらの四冊は、各キリストの生涯とその目的とその与え給う救の方向とを、個性的に理解し、 これをそう書いているからである。新約書を学ぶ者は、先ず最初にこれら四冊の福音書の示しているキリストの特徴を、よく理解しなければならない。
⁋それでは、その四冊の福音書の示しているキリストの特徴とは何であろうか。第一のマタイ伝のキリストは、専らイスラエル・ユダヤ民族即ち神の「選民」の救主としての特徴を以て書かれている。 第二のマルコ伝のキリストは、 人間を束縛している罪の力から、彼を解放する 「ちから」ある奇蹟者としての特徴を以て描かれている。第三のルカ伝のキリストは、万民の救主としての特徴を以て描かれている。以上三つの福音書は、それぞれ特徴をもつてはいる が、大体「ナザレに生れ給えるイエスは神の子である」という、下からの観方をしているという点において相似ているし、また共通の記事を多くもっている。これが為にこの一冊をまとめ て「共観福音書」と呼ぶのが普通になっている。
⁋ところが第四のヨハネ伝のキリストは、これとは逆に「神の子はナザレのイエスなり」という、上からの観方を以て描かれている。随ってここではキリストが神の子として「太初」(はじめ) に神として父なる神と共に、在し給うた時から筆を起し、その神の子が受肉してー―人 となり給うて――此の地上にその生涯を送り給うた、という風にその生涯を描いている。これが四冊の福音書の概観であり、またそれぞれが描いているキリストの特徴である。

第一章福音書終わり、次回は第一章第一節マタイ伝概説1

ーーーー

新約聖書各巻概説>第一章福音書>

ホーム渡辺・岡村著書新約聖書各巻概説>第一章福音書>

 

コメントを残す

WordPress.com で次のようなサイトをデザイン
始めてみよう